[BOOK] 肌ざわり
尾辻克彦こと赤瀬川原平の短編集。この中の2編に中平卓馬をモチーフに書かれたと思われる小説があることを知り読んでみた。
その小説のタイトルは「牡蠣の季節」と「冷蔵庫」。両方とも”森一馬”なる人物(おそらく中平卓馬)と彼が毎年送ってくる広島の生牡蠣について語ったものだ。この中で尾辻は”生牡蠣”を”森一馬”(中平卓馬)に仮託している。そして毎年森一馬から送られてくる生牡蠣が、めぐりくる盆であるかのような印象を与える。それは、毎年送られてくる生牡蠣の宅配の差出人の”森一馬”の文字を見て「戒名のようだ」と述べていることから感じられる。
「冷蔵庫」の最後では、再び生身の彼と再会するところで終る。死人とでも出会った気持ちになったからだろうか。それとも、彼の復活を何かリアルに感じた結果の出会いのシーンだったのだろうか。そうではないだろう、記憶を失ないつつも現在を忘れることはない(過去の人ではない)中平を象徴したのだろう1。
「左翼というのはいまいったいどうなってるんですか?」、「八十年代になると、安保闘争が始まるのでしょうか?」と森一馬が手紙の中で尋ねる記述がある。事実かは不明ながら70年代の記憶を失なった中平ならば、本当に赤瀬川に言いそうで面白い。また、森一馬からの手紙というのが、なんとなく記憶喪失後の助詞の抜けた中平卓馬の文章らしさが感じられて(中平に興味のある人以外どうでも良いことだろうが)これまた面白い。
と勝手ながら思う。↩︎
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